ハイドン交響曲通しNo. 1-10

音楽聴取記録（交響曲の聴取　各曲の聴取記録　通しNo.34　hob-No21

2024年9月1日　

通
No

Hob.
Nｏ.

通称名

作曲年

調性

楽
章
数

ｆｌ

ｆｇ

trp

timp

cmb

ランク

聴きどころ、ポイント

1764

(1)

cantabileの第2violinの動き

Alleglo　molto

Presto

Menuet

Alleglo　molto

第1楽章が緩徐楽章の場合は、主調が最後まで続くケースが多いが、これも該当。同じ調性が続くのは苦しいところ。Adagioの形式はソナタ形式でなく導入的な雰囲気。Prestoは中規模のソナタ形式だが、展示部では意外に様々な旋律が登場する。展開部は短いが再現部が提示部よりも拡大されている。Menuetはモーツァルトのkv525の第3楽章の出だしに類似。最後のAllegloは、最後を締めくくるように、すっきりと聴こえる。
　ドラティ盤のAdagioは、ややゆったりとしたテンポ。普段の演奏は、soloの扱い方はフィッシャー盤と比較したら区別がしにくい。しかしob.の扱い方は、割合にはっきりしている。Menuetのtrioは例によってsoloなし。井上著の本では、ハイドンがエステルハージ侯爵の元で、いかに技術の向上を見せているかの曲だと記載してある。弦のsoloの箇所は余りないがfl.を含む（この曲ではfl．は登場しないが）演奏家の技術はかなり高かったと思う。その技術を披露するのに、ぴったりの曲だと思う。
（2019年12月30日追記　タグとして2010年12月23日とする）

2011年3月25日　スコアを見ながら3者の演奏を聴取。緩徐楽章が最初に来るのは一つ前のHob-No-22と同様。3部形式かもしれないが。細かい点をチェックしてみると、各パートで細かい強弱の指定がある。特に中間部では、得てしてvn.の高音域の動きに捕らわれやすい。しかし低弦では第1主題の旋律が調を変えながら登場。この箇所では、むしろ低弦の方が聴き所になっている。もはやvn.だけが主旋律を担当するばかりではない例のひとつ。
　再現部では、1オクターブ高く第1vn.による回帰してくるが、強弱の指定が「ｐｐ」になっている。提示部の「ｐ｣と対照的。ここでの3者の演奏全てが「ｐｐ」の指定を忠実に守っている。
　フィッシャー盤ではMenuetの主部はもちろんFinaleの「ｐ」の箇所では弦のsoloになっている。
　Finaleは「駆け抜ける明るくユーモアのある雰囲気」と前記した。細かくスコアを見てみると1小節の短い中でも4分音符、時には3連符がスラーとスタッカートが分けて書かれている。主題自体も1オクターブが跳ねるように、書かれている。全て跳ねて動き回るような符に終始すると思えば、第2主題はtenuto指示の旋律だったり。Prestoの速さで、これらを各パートが演奏するのは、やはり当時の優れた演奏技術の高さが推定できる例だと思った。
　フィッシャー盤では「ｐ」　の箇所がsoloになっているので、もし演奏会で実際に聞いてみたら、solo奏者と合奏との対比が見られて印象深いと思う。
　ディビス盤では第1楽章の中間部で、cmb．の装飾が効果的（T29～41当たり）　楽章の入れ替えながらも作者が試行錯誤を重ねていった例のひとつ。ランクはCでOK。

2013年３月26日　追記。ホグウッド盤を聴取。第１楽章のAdagioは3部形式と記載をした。繰り返しの指定が全くないない。考え方によっては、第2楽章に備えての長い序奏の解釈ができるかもしれない。
　一番、聴きのFinaleは僅か90小節。ホグウッド盤では管楽器の音が、控えめになっている。その分、各弦の細かい動きが手に取るように聴き取れる。短いFinaleが特徴のため凝縮した主題や旋律が至るところに飛び回る雰囲気。演奏時間は短いかもしれないが、弦の演奏技術の凝縮という点では注目に値すると思った。

2015年３月20日　追記。ゴバーマン盤を聴取。作曲順番の一つ前のNo.22から、このNo.21を聴き通してみると曲の面白さが倍増する。楽器こそは、EHと（イングリッシュホルン）とob.の違いはあるが。共通点は緩除楽章から始まり、しかも４楽章とも同じ調に終始。テンポも大きな差がない。ニックネームが付いているので、どちらが演奏会に取り上げるかとなるとNo.22の方になるだろう。しかし細かく聴いてみると断然、No.21の方が面白い。自分なりにもランクを上げている。
　　第１楽章のAdagioはこのゴバーマンでは各パートがくっきりと聞こえる。各vn.は、最初こそ同じ音程と旋律を引いている。しかしT14から分かれ始める。終わりの方のＴ62からは第1vn.が「p」　で、あたかもsoloの様に繊細に動く。他の弦のパート特にbassが、かなり広い範囲で聴き取れて全体に広がったニュアンスが良く分かる。
　第2楽章も2つのvn.が最初は同じ旋律と音程で登場するが、次第に分かれ始める。展開部のT60からが第1vn.の独占場の様に引き立てる。　短いFinaleも第2vn.は、第1vn.よりもワンテンポ遅れて追いかけるよう引いている。これらの特徴をバーマンの演奏は良く捉えていると思う。エステルハージ楽団の第1vn.の奏者の技術力の高さを見せてくれる曲だと、井上太郎著の本で紹介があった。このゴバーマンを聴いてみて再度、認識をした次第。

2018年　12月4日　21番　ジェラード・シュワルツ　　スコットランド室内管弦楽団 Gerard Schwartz, Scottish Camber Orchestra　を聴取。日本語で表記しにくいため、原文の英語でも記載する。初めてこの演奏を聴取する。モダン楽器？と思われ、これ以外にvc.協奏曲第1番　No.96がカップリングされている。cmb.が常時入っている。(奥側のやや右側)繰り返しの後半などでは装飾を含めて独自の動きがある。
　最初から繰り返しのない緩叙楽章で、４つの楽章も同じ調性。たまたまバレンボイムのNo.49からの引き続きもあり、No.49と同様に第1楽章は第2楽章に向けての長い序奏という解釈は共通。しかしこちらは明るいA調とくいうこともあり、第1楽章と第2楽章の間は少し間が開いても良いかもしれない。
　自筆楽譜が存在し1764年の作曲。No.49(1771～1772年頃)よりも時代が下がり約7年前となる。No.22とも共通点があることも含めて、副楽長時代で就任した明るい雰囲気が特徴のひとつ。自前のエルテルハージ楽団で特にvn.奏者がそろった腕前を披露させている雰囲気。弦楽器のsoloの箇所はないが、Finaleを中心にvn.の技巧はかなり高いものが要求されると思う。
　元々この曲自体それほど、ランクを高く上げていなかったがfinaleだけは別であった。ゴバーマンの演奏で２つのvn.パートが両翼配置を生かした掛け合いが面白く、ランクを上げた経緯がある。特にfinaleの冒頭で２つのvn.パートが僅かに遅れて掛け合うところ。また時にはユニゾンも交えながら、飛び回る雰囲気は両翼配置の醍醐味がある。
　この演奏では通常配置で、今ひとつ掛け合いが聴こえてこない。弦の奏者の数はやや少なめ。最近のこの楽団のホームページをみると総勢31人で弦の奏者は下記の通り。

6－5－4－4－2

ライナーノートによると、この指揮者は関連している下記の組み合わせのcdが発売されている。協奏曲を交えて、聴き通したほうが面白いかもしれない。

　D／CD　　3061　
交響曲No.22
ピアノ協奏曲D　major
交響曲No.104

2019年3月13日　エルンスト・メルツェンドルファー　ウィーン室内管弦楽団　21番を聴取。No.23の最初にも記載をしたが、No.21～24の4曲をセットで考えた場合、それぞれ共通点と異なる点があると思う。No.21と22の相互を比較した場合、同じ４楽章で冒頭は緩叙楽章。全て同じ調性。打楽器群は入らないのは共通。No.22はEH.が入る。しかしNo.21の第1楽章は3部形式で繰り返しはない。繰り返しがないこともあり、第2楽章への長い序奏のような雰囲気。しかしこちらの方は、管楽器の独自の動きがあり、調性と強弱の変化が大きく変わる箇所が多いのが特徴的。No.22とはこの変化の箇所が多いのが聴き所になると思う。弱奏の部分も多いので、弦楽器の微妙な音色も聴き所。
　メルツェンドルファーでは緩叙楽章は概して遅めのテンポ。この曲も同様だが、遅めがさらに効果を増して微妙な音色や強弱を旨く表現していると思う。中間部で管楽器が休み、盛り上がっていく箇所がある。Va.とvn.は常にT29～41まで４分音符。一方、低弦はtenutoで冒頭の旋律を１小節単位で音程を変えながら推移していく。提示部では類似箇所でT16から第2vn.で始まる。中間部では低弦にバトンタッチ。低弦の旋律は冒頭の旋律とも共通しているので、この音色がポイントになる。低弦を引き立てるため、バランス良くvn.とva.の音量を抑えている。
　Finale冒頭の跳躍する２つのvn.のバランスも対向配置ではないが、微妙なズレも含めてよく分かる。ダイナミックレンジも広く、バランスも適度で録音も良い。余り目立たない曲のひとつだが、メルツェンドルファーのこの演奏は推薦したい。

2019年11月2日　21番　　Kevin　Mallon　K　マロン　Toronto　Chamber　Ochestraを聴取。No.22と同様に自筆楽譜が存在し作曲年代が確定。No.20から引き続き聴取すると4～7年の後になる。No.20以上に作曲スタイルが大きく変わり、No.22に似たような雰囲気もある。マロン盤は全ての箇所にcmb.が入っている。緩叙楽章は遅めのテンポでそれに対して速い楽章は、かなりテンポも速め。同じ調が４楽章とも続くには少々、聞くのには苦労をする。しかしテンポの変化も大きく、随所に転調の箇所もあり、調が同じに関しては、それほど違和感がない。
第1楽章の冒頭、４分音符遅れて低弦で旋律がさらに登場する。ここでのcmb.の音量は、かなり大きめで意外。しかし展開部の途中で（メルテンドルファーのブログ　以下のアドレスに譜面あり）cmb.は低弦と同様に音量をさらに抑えて、各パートを目立たせている。

http://mistee01.blog118.fc2.com/blog-entry-1109.html

Finaleを中心に、テンポの入り方のズレと一致が至るところにある。一度、聞いただけでは、この曲の魅力は分かりにくい。複数の指揮者を聴いてくる中で、曲の面白さが増してくる。マロン盤は古楽器を生かした音色も効果的。第2楽章の提示部のT17の部分。ここの動機が第４楽章の展開部の導入部分T43にも生かされている。第2と第4楽章に類似点あり。ハイドンの交響曲は、曲によっては、同じ交響曲の中で類似箇所を採用し統一感を押し出せているものもある。

　この曲でもって、マロン盤を終わる。NAXOSの全集も一応、これで終了となる。ガロワ盤とマロン盤には共通した特徴がありそうだ。ガロワ盤はモダン楽器のようだが、マロン盤は古楽器。楽器の違いはある。ガロワ盤は楽章の間でのテンポの差は余りない。一方マロン盤の方は、楽章間のテンポの差がかなりある。速い指示の楽章は特に速い。しかし繰り返しは忠実に守っていることもあり、速いテンポながらも充実感がある。柔らかい表現の箇所はガロワ盤と同様で、微妙な強弱も両者付けているのは共通点と思う。
　だが全集を通しての企画を考えた場合、複数の指揮者や楽団によるものになる。マロン盤とガロワ盤はそれほど、私は差がないと思う。しかしその他の指揮者に関しては、マロン、ガロワ盤とはかなり雰囲気が異なる。全集としての統一感というか、まとまり感には、どうしても欠けてしまうと思った。104曲余りの交響曲を全ての指揮者が、統一した解釈で貫徹するのは逆にある意味、難しいことでもあると思う。

21番　鈴木秀美　OLC　オーケストラ・リベラ・クラシカ　
2022年7月28日　21番　鈴木秀美　OLC　オーケストラ・リベラ・クラシカ　を聴取。第14集のCD。ライナーノートの指揮者の解説で、選曲にあたり、最初の第１曲は初期の秀逸な作品のひとつと感じていると記載がある。No.15の様に緩徐楽章から始まるが、全てが同じ調性。各楽章もそれほど長い時間でもないため、一度、聞いただけでは余り印象がない曲の一つかもしれない。この部分で、指揮者（鈴木）は楽章の最後の方で　フォルテが２度だけ響き渡るとある。T71で終わるので、T69とT70の終わる手前の２小節の部分になる。
　しかし、これより前にすでにこの楽章の後半あたりのT55から、すでに　フォルテの箇所がある。しかしT69、T70　に向けて、ここでは音量を抑えている雰囲気。この演奏に限らず、どの指揮者にも共通するかもしれないが、緩徐楽章の音量を全体的に抑える場合、　フォルテ　の音量と、それ以外の楽章の　フォルテ　とでは、同じ　フォルテでも音量の差がある。

この後につづく２曲めには、モーツァルトの　K272　コンサート・アリアがある。３曲目のNo.60と合わせると、劇場的音楽の聴き比べの主題が記載されている。この主題に基づく、１曲目として、No.21はふさわしい。

第2楽章は快い楽章でゼクエンツ（模続信仰：同様の和声進行で進むフレーズ）の記述がある。この曲だけではないが、冒頭の第1主題は、再現部では、冒頭の部分は回帰してこない。最後の部分で再度、登場するなど、一度、聴取しただけでは気づき難い。展開部と再現部の繰り返しがあるので、このあたりも、ありがたい。

2023年8月25日　20番　R　グッドマン　ハノーヴァバンド　Roy　Goodman　The　Hanover　band　を聴取。このCDの５曲目で最後になる。No.17～20と比較して、自筆楽譜が存在し、作曲年代も確定。No.21～24はいずれも自筆が存在するためか、このあたりの曲は共通点が多いと思う。特にNo.21は、次のNo.22と類似していると思う。楽器編成はob.ではなくeh.に　なるが、緩徐楽章から開始し全て同じ調性など。しかしFinaleに関しては、No.21の方が断然、面白い。冒頭の箇所から休符をはさんで、掛け合いは何度、聴取しても飽きない。（下記のレビューに譜面あり）

http://mistee01.blog118.fc2.com/blog-entry-1042.html

上記のレビューは、vn.が対向配置でないため、今一つだった。それに対して、ホグウッド、　ゴバーマン、鈴木秀美　OLC　などは対向配置で、掛け合いが楽しめる。鈴木秀美　OLCはライナーノートの中で第1曲目に、このNo.21を持って来た。その後、モーツァルトのコンサートアリアをはさみ最後に、No.60で締めくくった。オペラの演出がこのCDではテーマになっている。最初のNo.21は、緩徐楽章から開始し、初期の頃でもロマン的で歌う様な雰囲気がコメントにあった。3曲目のNo.60は、6楽章あり臨場感にあふれある意味、視覚を重視したオペラ風な曲でもある。No.21の位置づけが1曲目とはいえ明白。ハイドン以外の他の作品もあるがライヴ録音で1枚ごとに企画が明白で、とても楽しみにしている。
　一方、このグッドマンのCDは、この1枚に関しては、ホーボーケンの順番だった。また別なCDではあるが、No.1～5もホーボーケンの順番だった。ホーボーケンの順番は作曲年代とは異なる箇所が多い。　ハイドン以降の交響曲は1曲あたりの演奏時間が長いのも多い。しかしハイドンの初期の交響曲は１曲あたりの時間が短い中で、複数の交響曲を１枚に収録することになる。それぞれの交響曲の調性、作曲年代、楽器などが様々に混在する。単にホーボーケン順番で収録すると最後の曲はある意味、不消化で終わる可能性もあった。しかし幸いなことにNo.21が最後であることは助かったと思う。
　グッドマンのCDは、まだ全てを持っていない。また、ハノーバー　バンドの公式ホームページによると、全曲の録音ができていない。全ての曲は指揮者とcmb.の通奏低音を兼ねている。ハイドンが作曲していたエステルハージの宮廷は、cmb.奏者がいなかった。演奏は、この宮廷だけで限らない。一部の初期の作品は筆写譜が流通し、機会は少ないかもしれないが、他の会場でも演奏された。演奏の方法は、当時から奏者の都合もあるので、奏者の数や楽器の種類も色々なパターンが考えられる。ハノーバ　バンドの歴史を見ると、1780年頃のロンドンのハノーバスクエアなどとも関連があるようだ。ハイドンの招聘前から、ハイドンの交響曲の演奏していた可能性もある。作曲年代からほどなくして、ロンドンでの当時の奏者を再現したという考えもある。そうなるとcmb.が入っているのも不自然ではない。

2024年2月18日　21番　J　クランプ　Johanees　klumpp　Heidelberger Sinfoniker　を聴取。第28集の第1曲目。この2枚目は、No.21～24の4曲がセットになっている。全4曲は自筆楽譜が存在し作曲年代が確定。それぞれの曲が、全て特徴が異なる雰囲気。「ハイドン106の交響曲を聴く」様々な試みがうかがわれ、きわめて興味深いと記述あり。過去の自分のレビューなりからまとめて、共通しないこの曲自体の特徴がある。私にはこの交響曲は以下の3点。

(1) くり返しのない第1楽章。

(2) 弦と菅が呼応するような役割の明確化。
(3) Finaleの休符によるテンポのズレと一致によるパートの掛け合い

(1)(2)についての奏者としての特徴が今回は余り分からない。しかし録音のレンジの広さを生かしている。弱奏で始まり弱奏で終わる。途中で雰囲気が変わり、盛り上がる箇所もある。T26からT28に弦のみでやや、音量を上げて盛り上がる箇所がある。第1vn.も含めて弦の音域が当たっていく。その後T29からvc.とbass.がtenutoの指示で4分音符の旋律を演奏する。他の指揮者も同様だが、このbass.の旋律を引き立てるように、他のパートは伴奏に回るの。このbass.の旋律がスラーの記載ではあるが、No.12の緩徐楽章で記載したようなにスラーあるいはポルタティメント風に弾いている。ライヴ録音だと、どうしてもbass.の音量に限界がある。
しかしこの演奏では、敢えてbass.の音量を多少、多めに取り入れているかもしれないが、伴奏側の音量も含めて自然な雰囲気。スタジオ録音なので、聴取者に聴き所のツボをストレートに伝えている雰囲気は、今までの印象と同様。Vc.が2名で左側。bass.は中央で1名。計3名が明白に位置。

(3)のFialeのパートの掛け合いも、概して他の奏者と同じような雰囲気。T47～50は2つのvn.のみが、類似動機がcanon風に遅れて登場する。ここでも対向配置を生かしてよくわかる。この曲を含めて共通しているがテンポが速い楽章では、クランプは速いテンポを通している。
各パートが時には、休符によりずれる箇所もあれば、ユニゾンで同じ様に演奏。シンコペーションを含む、様々な動機が登場。1小節ないにも細かい指定がありそうなスコア。(何度も触れてきた、岩城宏之著「楽譜の風景」でハイドンの演奏が難しいといった要因にもつながる)　この細かいニュアンスが仕掛けられていると思うFinale。かなり速いテンポの中でこの演奏がこなしている。初演当時エステルハーザでの宮廷関係者は、当時は現代音楽として聴いた。宮廷以外での欧州のオケでも聴衆は現代音楽として聴いた。スコアにはこのFinaleは細かい仕掛けがある。当時の演奏者の力量が問われると思う。というのも休符などを含むこれらの仕掛けは、奏者としての力量が問われるからだと私は感じるからだ。

2024年8月26 日　ドラティ盤　No.21を聴取。ハイドンの交響曲を聴き始めた当初は、ホーボーケン番号あるいは、作曲順番でレビューをしてきた。No.21～24は、自筆楽譜が存在し、この４曲は作曲年代が確定している。４曲をどの順番で演奏するかは、指揮者なりの判断によると思うが、概して、ホーボーケン番号の順番で収録されていることが多い。最近の　J　クランプ　も４曲が。この順番でのセットで収録されている。この順番だとNo.21からNo.22の順番になる。
　かねてからNo.22は、余り印象に残らず、No.21と比較したことが多い。今ではNo.22も、それなりに面白さを自分なりには分かる。それでも２曲を比較すると、No.21の方が、断然、面白い感想は変わらない。No.21の特徴は、　J　クランプ　のレビューでも４つの特徴を記載した。

http://mistee01.blog118.fc2.com/blog-entry-1968.html

しかしこの記載の出展は、　井上著　「ハイドン106の交響曲を聴く」からの引用である。この著作の中で、初期の曲の中には、「凡作」と一蹴されるような、簡単な記述も所々ある。私には凡作とは思わない箇所もあると思うが、個人的な思いもあるので、否定できない。No.21に関しての3つの特徴を再掲してみる。

(1) くり返しのない第1楽章。
(2) 弦と菅が呼応するような役割の明確化。
(3) Finaleの休符によるテンポのズレと一致によるパートの掛け合い

(1)と(2)は第1楽章のAlleglo　molto　に関わる部分。繰り返しがなく、弦楽器と菅楽器が呼応する箇所が多い。鈴木秀美　OLC　の演奏は、終わる直前は　f　の２か所を重視。このf　の箇所を際立たせるため、冒頭からの全体的な音量を、抑えている。下記のレビューを参照。

http://mistee01.blog118.fc2.com/blog-entry-1965.html

これに対して、ドラティの場合は特に音量についての変化は余りない。上記の(1)～(3)のポイントには関わらないが、第2楽章　Presto　の繰り返しに関しても興味深い。この楽章の再現部は、提示部の最初の部分が省略されている。結尾のところで再度、提示部の動機が再登場する。提示部の動機を敢えて伏せておいて、最後に曲を締めくくる手法になる。この手法はこの曲だけに限らず、またハイドン以外の作曲家も取り上げるケースが多い。
展開部と再現部の繰り返しがある場合、この提示部の動機がもう一度、聴くことになる。ドラティは繰り返しがないので、提示部の動機は1度で終わり。ハイドンの後期の交響曲などは、展開部と再現部の繰り返しのないケースも多い。あるいは、ロンドソナタ形式の様に、最初は提示部に続くような意表をつく手法など様々なタイプがある。このドラティの演奏は繰り返しが省略されているので、後期の交響曲の先駆けの様な雰囲気。

　(3) Finaleの休符によるテンポのズレと一致によるパートの掛け合いは、過去のレビューで何度もこの楽章の面白さを記載して来た。その中のマロン盤　の中で、第2楽章と第4楽章の関連がありそうな動機について記載をした。

http://mistee01.blog118.fc2.com/blog-entry-1964.html

No.21～24は、作曲年代が近く、共通点がそれぞれ多い点も多々あると思う。４曲同士だけでなく、１曲の中でも、共通する動機があるのは、No.8の例もその一つ。下記の　No.8のクイケン　にレビューあり。

http://mistee01.blog118.fc2.com/blog-entry-1855.html

　No.21が作曲されたのは、　1764年になっている。当時は筆写譜のみが存在、印刷としての出版は、まだほとんどなかった時代だと思う。初演も、もちろん、作曲者自身が指揮者あるいは奏者を受け持つ。初演当時は、エステルハーズィー侯爵及びその関係者が大半。曲が誕生した直後は、同じ曲が何度か再登場したかもしれない。再登場があっても、侯爵は、言わば、何度も同じ曲を繰り返して演奏する指示はないと思う。再生装置がない当時は、現代でいえば、歌謡曲の様なものに近い。数回程度は、筆写譜としても、邸内に存在していたと思うが、その多くは、邸内から外に余り、他の筆写譜に書き写されることは余りなかった。
邸内で火事があったために、過去の作品、あるいは作曲途中の筆写譜を失った。現代の音楽学者の研究でも、時折、筆写譜が時々、見つかるようだが、その頻度は余りないように思う。これらの状況から、この当時は筆写譜の流通は、かなり限られていたと思う。
　当時の歌謡曲としての交響曲という立場。頻繁に新しい交響曲を作曲することや、総譜としてまとまった保管も、ままならない状況も考えられる。スコアを通して各曲の特徴などを作曲者以外が、知ろうとする方法も少ない。そもそも歌謡曲という立場を考えると、作曲された後の過去の曲は、出版という記録媒体が存在しない限り、その場でほぼ終わってしまう立場となる。
　現代では録音という方法で自分の好きな時や場所で、繰り返し、聴くことができる。また、印刷物としてスコアを入手できる。自筆楽譜をもとにスコアから、作曲者の意図することが、ある程度シナリオの様な感じで分かる。しかしスコアには、細かい指示は記載していない。自然倍音しかでないhr.がどの高さを基準として「高い音」　「低い音」のどちらを採用したのか。メトロノームがまだ発明されていないので、科学的あるいは、絶対的な基準でのテンポが分かり難い。あるいは分かっていたかもしれないが、作曲者やエステルハーザ楽団の奏者にとっては、記録することもない事項であったかも。
　現代の私には、No.21の(1)～(3)の特徴が分かる。様々な指揮者や奏者により、この比較もできる。ドラティのこの演奏を通して、歌謡曲としての当時の交響曲の位置づけを感じた。