2.聴取記のポイント
 最初の1のきっかけに引き続き、聴取記のポイントについて書いてみたい。氷山の1角としてはザロモンセット12曲に絞っていた。しかし、私としては、もう少し、幅広い範囲の曲が海面より上になると思う。12曲は確かに知名度は高い。しかし、それ以前の1785年〜1789年頃に作曲されたパリ交響曲(パリセット82〜87)の6曲あたりまでを含めたい。パリセットはザロモンセットの12曲ほどの知名度はないかもしれない。しかし完成度の点では、引け目を取らないと思う。
 むしろ私としては、パリセットがザロモンセットと同等に当たると考えている。それに対してパリセット以降につながるザロモンセット12曲は、イギリス ロンドンのコンサートの聴衆者に対して派生したものと解釈したい。パリセットでは、ハイドンとしての交響曲の完成を既に到達している。それ以降のザロモンセットは、完成度は同等であるが、氷山に例えると、見られている方向が異なると考えている。
 すなわち、ハイドン自身は、交響曲としての完成域には既に到達している。ハイドンの作曲数は、諸説はあるが、今回は108曲とした。(根拠、中野博詞 著、ハイドン交響曲 春秋社) 本書では、交響曲を全部で5期に分けてあり、パリセットあたりは第4期、ザロモンセットは第5期に相当する。
 海面より上に出ている、パリセットからの最後の104番までは22曲となるが、それでも108曲の内の約2割にとどまる。残りの約8割は海面下になる。海面上と海面下との差はどの様になるのか? この差がいかにして縮小し、成長していくことを紹介することが、ここでの目的である。そのためには、最初期の頃と、海面より上に出ている成熟した頃とを対比してみることが手っ取り早い。私なりに自分なりの観点で初期と完成期について、対比の表を作ってみた。他の項目もまだあるかもしれないが、当面、この4点を中心に、ポイントを絞ってみたい。
 2012年12月26日 追加記述 残念ながら「ハイドン交響曲」の著者である「中野博詞」氏が、12月14日に逝去された。享年78歳。類似の著作である「ハイドン復活」を探しているが、未だ入手できない。ハイドン交響曲の著作では、主に、後期のパリセットを中心に、記載がされていた。
 それに対して「ハイドン復活」の著作では、主に、初期から後期までの交響曲全般にわたっての記述がされている。一連の交響曲をコメントしていく中で、初期から中期は、一般には余り注目されていない。この時期にスポットを当てて、今後もじっくりとこの本を入手して、コメントを続けていく予定。ご冥福申しあげたい。
中野博詞による創作時代の分類
第1期 1757頃〜1765頃 交響曲様式への模索
第2期 1766頃〜1773頃 バロック様式の同化
第3期 1774頃〜1784頃 聴衆への迎合と実験
第4期 1785頃〜1789 古典的完成
第5期 1791〜1795 円熟
表1 「最初期と完成期の対比表」
項目 最初期の頃 完成期の頃
楽章数 3または一部4 全て4
楽器編成 弦5部に加えてob.、hr.、fg.程度、 左記に加えてfl.、さらに必要に応じてtrp.等
ソナタ形式 一応、完成はしているが、まだ、未発達な部分あり 形式の完成。展開部の主題の労作などにも注目。第1楽章は必要に応じて序奏あり。
楽器の使い方など 完成期と比較して特に目立つものは少ない 旋律美と楽器の妙味が緩徐楽章を中心に堪能できる。

中野博詞 著、ハイドン交響曲
この項目の中で、ソナタ形式における、第2主題の役割(第1主題との対比)、提示部や展開での動きなどは、興味が深い。ハイドンは他の作曲家以上に、特に最終楽章にも特徴がある。そこには、一種のユーモアーが漂う雰囲気があり、交響曲を1曲でも聴き通した後は、すっきりとした味わいが漂う。その他、各楽章でのコーダの有無なども、対批表にも加えたいところだ。しかし、全曲をできるだけ通して行うには、表1以上に項目が増えると、煩雑になる可能性もある。各曲のコメントは、上記の4項目を中心にそれぞれ記述をして行きたい。